『春耕』4月号 主宰・棚山波朗

鑑賞「現代俳句」       評者 蟇目良雨

 一枚の熊の毛皮の大欠伸     岩淵喜代子[ににん]
                                       「俳句」2010年2月号
 
 山奥の宿に泊ろうと大きな硝子戸を開けて土間から一段と高くなった板敷きのロビーに上がると、そこに熊の等身大の毛皮が敷かれていることがある。多分地元で撃ち止めた熊を毛皮にしたものだろうがこの他にも鹿の剥製や狐、狸の剥製などが埃をかぶって飾られている。この乱雑さがいかにも山奥にやって来たなあと思わせるのである。
 掲向はこんな光景の中の熊の毛皮なのであろう。頭付きの熊の毛皮は客が来ないことを託つように大欠伸をしてるようにも思えるのである。「大欠伸」の措辞を得たことにより光景が生き生きと動き出した。
 作者の「ににんブログ」を読むとひたむきに文芸に携わっている姿勢が見えて力付けられることが多い。また、近著『頂上の石鼎』では原石鼎に迫っている。一読を薦めたい。

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