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しぐるゝや飛行神社の守り札  坂石佳音

★飛行神社は、京都府八幡市にある日本で唯一の航空安全の神社だそうだ。昔から多くの人が夢見た「鳥のように空を飛ぶこと」は、1903年ライト兄弟が初めて飛行機を飛ばして実現した。現在では、おそらく船旅よりも利用機会が多い空の旅であるが、そこには今も多くの危険が伴い、多くの犠牲も続いている。各地にある落馬止め天神などと比較すると、どうにもお守りくらいでは、いかんともしがたい無力感が漂う。(あき子)

満塁の捕邪飛は低し小六月  正

★ご存知だろうか。捕邪飛。野球好きなら当然承知している言葉なのだろうか。何やら良くない飛び方のようではある。調べてみると「邪飛」がファウルを指すことが分かった。で、捕手へのファウルフライが「捕邪飛」。へへー、と感心する。野球用語の多くを翻訳していた正岡子規が、「foul か、そうだな、これは邪道の邪」などと苦心していたかと思うと、なんだか楽しい。俳句で子規といえば病臥のイメージが強いが、野球に打ち興じていた小春の一日が、確かにあったのだ。(あき子)

縞馬の縞を飛んだる冬日かな  新村長門

★実際には、縞馬なんて動物園かサーカスのテントの中でしか見ることが出来ないかもしれない。でもその縞馬を日常のなかに引き寄せよう。それが、虚実皮膜というものである。だから、縞馬が飛んだのではなく冬日が飛んでいくのである。縞馬の縞模様と太陽だけをデフォルメした世界をつくりあげている。(喜代子)

蓮の実飛ぶなにかいいことありそうな  とちの実

★蓮の実とは、蓮根ではなく蓮の花の実のこと。晩秋になると、ポンと弾けて水中に種が飛ぶのだという。残念ながら見たことはないが、鳳仙花のような感じだろうか。植物は後の世に種をつなげるため、さまざまな方法を使うが、弾けて散らすというのは視覚的にも愉快である。まさに「なにかいいことありそうな」という楽しい気分になるのもうなずける。さらに古代蓮なども重なり、悠久の時の流れの喜びを感じる。(あき子)

きちきちの映画のスローのやうに飛ぶ  括弧

★こんなことが確かにある。目の前を一瞬横切ったものが、スローモーションの映像のように実にはっきり見えたと感じる。キチキチと立てる音までいつまでも耳に残り、ああこんなことが以前にもあった、と記憶の扉が突然開いたりする。ところでこの「きちきちばった」、私はずっと「ちきちきばった」と呼んでいた。インターネットで調べても、どちらもあるようなのだ。はてさて皆さまは、きちきち派? それとも、ちきちき派?(あき子)

飛び石や何処ともなく昼の虫   蛙

★まず日本画的な映像が浮かぶ。飛び石だけが画面いっぱいに渡っていて、そのどの石にも秋日が降りそそいでいる情景、それだけでも静かな真昼の一場面としていろいろな想像を呼び起こす面白い構図である。昼の虫は飛んでいるのか、這っているのか、とにかく、飛び石をよぎってどこかへ消えていくのである。「何処ともなく」という中七が真昼の風景を不思議にしている。(喜代子)

かなしみの隣にをれば木の実飛ぶ   ショコラ

★「かなしみ」などという言葉はなかなか俳句には使えない。しかし、作者は「隣」という措辞によってかなしみを具象的に扱っている。「隣」といわれることで「かなしみ」に手触りを感じるようになるのである。無心に降り続く木の実は、かなしみの象徴のようでもある。(喜代子)

折るだけの紙飛行機も愁思なる   正

★季節の移り変わりに物思う秋の寂しさが、春の愁いと違うのは、確かな皮膚感覚が存在することだろう。日に日に冷ややかになる清涼な空気のなかで、気がふさぐ理由はそれぞれだろうが、掲句では、飛ぶことの叶わぬ身が折る紙飛行機に込められている。この一枚の紙が、指先で折るだけ、たったそれだけで空を飛べること、そこに感じる秋思なのだと思いたい。(あき子)

狂言師ござるござると秋を飛ぶ   宮 沢子

★能や狂言を俳句に詠むのは観念に陥ってむずかしいものである。この句の第一の良さはそれらの情緒に捉われずに即??物的に句にしたところにある。狂言の特徴的な台詞「ござる」を見事に作品化しているので、「秋を飛ぶ」の抽象語も諾える。(喜代子)

飛び切りの青空献上渡り鳥   こうだなを

★秋から冬へのこれからが渡り鳥の季節である。ことに川や湖は賑やかになる。そんな鳥たちのために今日の空が晴れわたっているのである。「飛び切り」という日常語が詩歌の中でなめらかに収まって作者の気持ちを伝えている。(喜代子)

秋うらら久米の仙人飛行中  渓

★空中飛行中に、吉野川で洗濯中の娘を見た途端、神通力を失い落下してしまった久米仙人。抜けるような秋空を飛べば、手に取るように下界が見渡せたのだろう。あまねく娘の白い足元まで。ちなみに、久米寺では秋の大祭に「仙人踊」が踊られるという。踊り手の浴衣の裾を、仙人が杖の先で引っ掻けて回る。今も昔も、相も変わりませんようで…。(あき子)

蓑虫やどうでも飛びたい厨妻   真珠

★10月7日の朝日新聞『折々の歌』は「薬缶だって、/空を 飛ばないとはかぎらない。」という入沢康夫の詩の書き出し部分が鑑賞されていた。全部をよまなくても、この2行だけで心がわくわくしてくる。真珠さんの句は「厨妻」が飛びたがっている、というのである。薬缶よりもさらに飛べそうもない厨妻の願いが、なんだか蓑虫の願いでもあるかのように思えてくる。(喜代子)

飛行機の赤き灯わたる星月夜   正

★飛行士だったサン・テグジュペリは、操縦席から大地を見下ろし、さまざまな物語りを紡いでいった。今、透き通った夜空を見上げ、こぼれる星の間に飛行機の点滅するランプを見る。『星の王子さま』で、キツネが王子に教えたとっておきの秘密は、「本当に大切なものは目には見えないんだよ」という言葉だったことを思い出す。秋の夜長は、もう一度ゆっくり読んでみたい本のためにある。(あき子)

新涼の野面ゴッホの耳が飛ぶ   蝉八

★ゴッホは自らナイフで耳を落した。理由はどうあれ、野原に耳が飛ぶ風景は異様である。爽やかな秋の野に、よりによってゴッホの耳を想像するとは。しかし、この句の魅力は、一番ありえない取り合わせが、強烈に響きあっているところにある。読者の頭には、野原に、ゴッホの耳が、上向きに、いつまでも落ちている映像がいやでも浮かんでしまう。映画『ブルー・ベルベット』は、草のなかに落ちている耳が、ひとしきり映し出されて始まる。耳は大人しく、まるで風の音を聞いているようだった。(あき子)

未確認飛行物体天高し   坂石佳音

★雲ひとつない上天気を「日本晴れ」。イギリスでは「The Queens weather」。透き通る青い空を特別に思うのは、どの国もおんなじ。遠く飛ぶ鳥の姿だって、それも未確認飛行物体のひとつ。(あき子)

飛込みのセールスが来て台風過   夏海

★台風のあとの空気の澄みようは格別である。台風が大きければ大きいほど、空の青さにほっとするものである。あたりには何処から飛んできたのかトタンや大枝が無造作に落ちている。なんだか、セールスマンも台風の落とし子みたいな気分になってくる。(喜代子)

橡の実の飛んで飛んでる県庁通り   acacia

★橡の実は栗かと思うような色をしているが、胡桃ほどの丸い実である。地に落ちたら弾んで何処にでも転がっていきそうである。アスフアルトの上ならなおさら転がりやすいに違いない。この句の手柄は県庁通りを配したことにあるだろう。橡の実の堅い感触と「ケンチョウ」という音質の相乗効果で、実りの秋を描いている。(喜代子)

秋の空なんでもかんでも飛んで行く   曇遊

★飛んで行くのは、翼を持つ生き物だけではない。草の実も、携帯電話の電波も、恋の矢も縦横無尽に宙を飛ぶ。透き通った秋の空気のなかでは、なにもかも見えすぎてしまう。だからこそ「なんでもかんでも」と、乱暴にひとくくりにしてベールを被せてしまうのだ。そして、このベールこそ秋思というものかもしれない。(あき子)

白萩や飛び石にヒールすべりをり   雛菊

★慌ただしく過ごすことが日常である。その急ぐ先にあるものは、電車に乗り遅れるとか、待ち合わせに遅れるとか。何かに遅れてしまうことばかりを気にして毎日を過ごしている。足元が一定しない飛び石を踏み、ヒールが滑った。ひやりとした瞬間、こぼれるほどの白萩に目が止まる。そんな時、ふと胸に問いかけるのだ。何をこんな??に急いでいるのだろう、と。白萩が手招きするように風に揺れる。(あき子)

薫子が真理子にゐのこづち飛ばす   きっこ

★「ゐのこづち」とは、その形態が猪の膝頭に似ているところから付いたという、色気のない植物の名である。飛ばす遊びというのは、この植物が洋服にくっつくからである。なにやら貧乏くさい遊びで終ってしまう「ゐのこづち」を救ったのは、彼女たちの名である。カオルコとマリコの「R」が効果的にお洒落なリズムを生み、少女が小鳥のような声をあげて野原で遊んでいる様子がキラキラと広がったのだ。(あき子)

秋の空触ってみようと鯨飛ぶ   ミサゴン

★飛ぶものが飛ぶのはあたりまえである。あたりまえでも思わぬ不思議な世界を展開してくれたら、楽しくなるだろう。今回の出句の大方は予定調和な飛翔である。たまにはビルが楽しく飛び、村がまるごと飛んだりして、元気をくれたらいいなーと思っていたら、鯨が飛んでいた。ここには真っ青な秋空と真っ黒な鯨がたわむれ合っている大きな世界があった。(喜代子)

ぬかるみをひょいと一飛鰯雲   佳子

★空があんまり青くて、心地よい風が吹いていて、そんな時、いつもはしない何かができるような興味がむくむくと頭をもたげる。そんな突拍子のないことがしたいわけではなく、そう、水たまりをひょいっと飛び越えてみたり、ちょいっと隣家の犬の鼻を撫でてみたり。人間も結構意図せず季節に反応をしていると思うと、なんとなく全てのことが嬉しく愛おしい。(あき子)

赤とんぼすいすい飛んで子等の声   acacia

★赤とんぼの飛び方は高く低く、子供の目の位置にもその姿をたっぷりと見せてくれる。間近で見る昆虫のめずらしさに子供たちは声をあげる。その赤さや、目の大きさや、羽の薄さに、夢中になっている。しかし、もうとんぼなど承知している、と思うと、見つめることをしなくなる。先日赤とんぼをあらためて見てみると、思いもよらぬ鮮明な赤さに正直驚いたのだった。(あき子)


予選句

鶺鴒飛ぶ空へ白球投げるごと雛菊
飛箱を飛べぬ悔しさ初蛙みぶこ
異国の地季語まで飛んでもう一句ゆうじ
寒禽の忍者飛びする伊賀上野新村長門
寒行の飛び散る団扇太鼓かな新村長門
掌を飛び立つメール冬うらら新村長門
飛翔する女を生みし冬の虹新村長門
飛竜子や我がともしびに寒さなし顎オッサン
草紅葉虫の飛び出す隙も無くゆうじ
空高く飛んでみたいと紅葉言いゆうじ
樹ゝ飛んで雪崩れて山の深眠りかおる
天の川横切ってとぶモモンガーもとい
白鳥や飛行機雲の友を追ふ雨宮ちとせ
焼田より白鶺鴒の飛び立てり桜井
秋天へ五体を晒す齢飛ばす真珠
星飛ぶにネル一反の長さかな風待月
まただれか飛ばして行った露の玉真珠
明治より三段とびに秋の虹京子
秋天へ飛べ碌山のフェニックス以和於
突飛です秋に初雪北海道曇遊
台風の飛びゆく後に地震とび来かおる
枯蟷螂車の道に飛び出せりじゃがいも
鞄から鳩飛び出せり冬の空夏海
それ自体飛行計画草のわた花茨
ぴんとはり飛耳長目のうさぎさん曇遊
やんま飛ぶ阿形吽形置き去りに潮音
秋空をタケコプターで飛べたらなぁ曇遊
おばんざいの飛竜頭甘し初紅葉ショコラ
飛ぶ夢はこの頃見ない夜長かな
秋風やすっ飛んでいくレジ袋
夢に逢へばこころ飛びけり彼岸花
シャボン玉飛ばしています癌告知宮 沢子
月浮かび琵琶湖にぴょんとうさぎ飛ぶ曇遊
羽広げ飛び行く明日は我が希望19歳
体育の日飛んだつもりがシャッターチャンス如月はつか
颱風の目の飛び飛びの進路かな文里
マルメロや五十年前に飛ぶ二人acacia
秋彼岸飛行機雲を指なぞる雨宮ちとせ
脚の無き飛蝗逃がしてやりにけりsiba
若き母秋野に飛ぶや二一忌acacia
若い母飛んでる夢やニ一忌acacia
ととろ飛ぶこっちに来るよすすき原ミサゴン
秋冷に纏るズボンの針目飛ぶ雛菊
とちの実の飛べずに一つ日が暮れるacacia
秋天の果極めむか戦闘機岩田勇
風寒み渡る鳥たち飛び去りつ杜若
秋ひとり飛んでイスタンブールかな以和於
秋蝶の飛び交うことも川の音真珠
コスモスの山に飛び来る風の山かおる
異国語の飛び交ふ湯宿星の秋早田睦美
秋いずこ紅葉もとめてこころ飛ぶ杜若
無となれず飛鳥菩薩と秋の空ミサゴン
ゴム飛びの少女見かけし秋の暮siba
大野原バッタが飛べば海になるまり
飛行機は富士山よりも秋描く曇遊
白鳥は未だ稲雀飛びうねるたかはし水生
「‘」ひとつ飛ばされし涙原爆忌とちの実
飛び来たる鵙おづおづと猛りけり括弧
飛ぶ鳥を落とすいきほひ猫じやらし岳青
秋の蝶飛んでかなしや空は果て舞姫
無人駅紅飛ぶ正体曼殊沙華舞姫
キャンバスに飛行機雲と草紅葉ゆうじ
鳥兜携帯電話飛び交いてかおる
飛んでるねとんぼとんぼとくりかえす曇遊
飛びたやと狂ひ跳ねるや竈馬文里
飛ぶように過ぎ行く日々や秋桜acacia
秋雲の流々飛行船泳ぐsiba
燕帰る紙飛行機に見送られハジメ
不揃いの橡の実飛び出す車道かなacacia
朝露や飛騨高山の三之町森岡忠志
竜飛の空はなまる描く赤とんぼ雨宮ちとせ
青北風や飛ばぬプロペラ発電すたかはし水生
橡の実や車道へ飛んで光けりacacia
肌に飛びきてちうと吸う蚊をやしなうrhauck
秋天を飛ぶ白きもの何だらう森岡 忠志
雁や飛ばされてゆく管理職夏海
飛ぶことも思案のひとつ草の絮こうだなを
今年米上野に訛り飛ばしつつとちの実
台風裡瓦飛び行く里の家かおる
飛ぶために眼をやわらかく秋の暮真珠
午後の陽やきちきち飛蝗音立てず括弧
夢飛んで野分けの朝に鰯雲ゆうじ
飛ぶごとく稲穂に風の姿見るゆうじ
飛び交って色を増しゆくアキアカネせいこ
満天のこころ解放星の飛ぶミサゴン
秋一日心飛んでるマジョルカへacacia
赤蜻蛉飛びゆく池は西東茶筅
希望への飛距離の延びる蝗かなミサゴン
秋茜飛ぶや凛々しき童女立つ括弧
夏の暮れ大人階段一個飛ばし雨宮ちとせ
蜻蛉の飛び立つ擦過音立てて括弧
流されて三回飛ぶや下り鮎siba
蜘蛛が飛ぶ野分の風や銀の糸せいこ
飛竜頭の煮えばなを割る時雨月坂石佳音