霜柱踏まば崩るる人柱   武藤雅治

一見目立たないのだが、ひとたびそれと気が付くと、気になって次々と踏み倒してみたくなるのが霜柱である。毛細管現象で地中から地表へ昇る水蒸気が凍ることで生まれる霜柱は、たかだか五、六センチである。しかし、それが人柱ということばに出会うことで、小さな柱がきわめて鮮明な存在感を放つのである。

歌人である作者は、句集『かみうさぎ』を「気ままに書きとめておいた句を六つの句篇に構成し、本句集とした。と述べている。

いちまいにめくれる春のわだのはら
あらくさのみな倒れふす御国かな
昏れのこる眼に晩夏(おそなつ)の走り水
すこしづつチカラをしぼる捩花
猫となり猫の後ろをついてゆく
行く秋や足が覚えて歩きだす
思ひ出のランチを食べる三姉妹
霜柱踏まば崩るる人柱
掌のなかに螢は罪のにほひせり

三句目までの句には短歌のみやびの匂がある。そうして、四句目から六句目までが、俳人からみた一番俳句らしい捉え方になるのだろう。また冒頭の(霜柱)の句も含んだ七句目から九句目までにある物語性も魅力的だ。要するに17文字形式にたいする枠のすべてを外して、180度の方向性を持った句集と言えるだろう。   武藤雅治句集『かみうさぎ』 2014年12月  六花書林

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