『春月』2012年7月号・主宰戸恒東人

現代俳句の風景  筆者 戸恒東人

神棚は板一枚や法師蝉 岩淵喜代子
下萌えや雀の奪ふ象の餌   同

 岩淵喜代子弟五句集『自雁』(はくがん)より。三〇八句を収録。岩淵氏は昭和十一年東京生まれ。同人誌「ににん」代表、朝霞市往往。総じて独特の見立ての句が揃っていて、写生には違い句が多かった。その中でも掲出句は、写生も効いており、ペーソスもあって鑑賞に堪える作品だと思う。板子一枚下は地獄という漁師の言葉があるが、神棚も板一枚しかなくて、お寒い限りだという一句目。図体の大きな象の餌を狙って、小さな雀たちが集まってきて、餌を啄んでいる面白さがよく出ている二句目。
 若い頃は、厳しい師匠がいて、観察と写生をしないと駄目だと指導されるが、そのうち年を取ってくると、師も居なくなり、また観察するのにも疲れて、心象句や時事俳句、地名俳句に逃れたくなるのだろうかと、私自身自問しているところがある。そんなことを少し考えさせられた句集であった。

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