前撮り

「前撮り」とはわれわれ普通の人たちには関係ない言葉と思っていたら、成人式も「前撮り」をするのだという。そんなもんなですね、最近は。それで来年成人式を迎える孫の「前撮り」に立ち会ってきた。とはいっても見に来てなどと言われたわけではない。

私が勝手に押しかけて行っただけなのである。仙台の街はどこもかしこも最後の紅葉で美しい。郊外のスタジオに入ると、孫は早速美容師に預けられて髪、そして着付けにまわる。スタジオではカメラマンが椅子の位置やら、背景の設定やら窓の光線を確かめていた。一時間かけて整った振袖姿を一時間かけてカメラに収める。それがアルバムになるらしい。

そのまま脱いでしまうのは惜しいらしくて、父親の帰りを待つことにした。娘の家で、何十年前の我が家の光景かと錯覚するような場面が繰り広げられた。その帰り道で、思わぬ災難に合いそうになった。日常の動作を迂闊にしていてはいけない。そう肝に銘じて迂闊でない動作を意識していたのに、道で転倒してしまった。

転倒は何も躓くところのない道である。それも我が家へあと数分というバス停でのこと。旅行用のカートを引きながら道を横断しようとバスのうしろから真中の分離帯まで出て車の来ないことを確認して一歩を踏み出したときだ。

踏み出した靴が何かに躓いたのだ。と言っても段差ではなく、アスファルトのざらつきにバランスを崩したのである。そのまま前へのめり込んだと思う暇もない勢いでもう一度身が反転するのを意識した。「いやだー、止って!」ということばが転倒しながら頭の中を廻った。

次の瞬間、引いていたカートを道の真中に残し、それに手を伸ばすような体制で長々と寝そべっている自分がいた。急いで車が来ないかを確かめて身を起していると、同じバスから降りた男性が「大丈夫ですか」と声を掛けてきた。

「車が来なくてよかったです」と挨拶したが冷や汗ものの出来事だった。一瞬のことでどこがどうなったのか分からないのだが、不思議なことに何処もかすり傷も打ち身もない。回転レシーブをしたような働きで、衝撃を分散させた転倒のようだった。仙台の娘一家には報告もしていないが。

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