●「ににん」2014年夏号 55号〈季刊〉

『太陽』平成二六年十二月号
他誌拝見       筆者・迫口あき 

平成十二年秋、埼玉県朝霞市にて岩淵喜代子氏により創刊。代表岩淵喜代子。師系原 裕。「同人誌の気概」ということを追求していきたいと。

氏は『評伝 頂上の石鼎』から四年後、『原石鼎の憧憬― 二冊の「鹿火屋」』を出版された。「ににん」では毎号兼題による作品集「ににん集」と自由題による「さざん集」の二集が設けられている。今号には別に佃島盆踊各十二句も。

代表の句五句を
上げ潮や更けて膨るる踊の輪    岩淵喜代子
踊の輪ときに解かれて海匂ふ
踊櫓古老は牙のごとくたつ
昼寝覚め尾のあることを思ひ出す
竹夫人抱くは胸を冷やすため

潮も満ち、月は中天に。「膨るる」に月光の海原と盆踊の高揚とが寸分の隙なく伝わってくる。一息入れ、輪を解いて休む踊り手。海からの風が潮の匂いを運んでくる。海の向こうには補陀落があるという。

そこからの匂いとも。極楽からも地獄からも盆には帰つてくる精霊.なれば称え迎え慰めるのが盆踊である。櫓の頂上で錆び錆びと唄う古老。背筋もぴんと張り揺るぎない姿勢cそれを「牙のごとく」と喩えられた比喩の的確さに魅了される。

昼寝覚めの半覚醒のまま、自分の有り様が掴み難いことがある。尾のあつた古代の国栖人か、カンブリア紀の生き物か。昼寝覚めの茫洋として異界のものになつた気分には大いに共感を覚える。胸中の炎を鎮め難いことがある。竹夫人を抱いてあの籠の中に吸い取らせよう。

同人の作品より

シネマ出て鯰のごとき笑み浮かぶ    高橋寛治
花曇文末さりげなくやさし     大豆生田伴子
竜の巣と確信したり積乱雲      木佐梨乃
ラムネのむ瓶の底より空が見え    服部さやか
鳥麦熟れて口笛吹く少女       浜田はるみ

「鯰のごとき笑み」とは思わず「瓢箪鯰」の謂いを思った。可か不可か、気になるなあなどにたりとされている顔と心。さりげないやさしさは嬉しく、心にしみる。積乱雲、今年の異常気象にはぴたり。悪竜の棲む雲である。入道雲は優しくおだやか。ラムネの瓶の底の青緑色は夏空の色。

金色に熟れた烏麦畑。口笛を吹く少女、ヨーロツパ風の恋の景色。新鮮で晴れやか。表紙には子規庵のスケツチ。ガラス戸越の糸瓜だなと子規愛用の机、筆皿、句帖など達者に描かれている。

「ににん」には高橋寛治、田中庸介、正津勉の三氏による連載評論があり、沢山の示唆を頂いた。

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