2016年11月11日 のアーカイブ

水筒のからつぽ背高泡立草   大曾根育代

2016年11月11日 金曜日

「水筒のからつぽ」というフレーズに「背高泡立草」をぶつけた取り合わせの一句。背高泡立草の明るさが水筒の空っぽの語感を生かし、水筒の空っぽという語感の無心さが、背高泡立草の軽やかな明るい世界を繰り広げている。

「大曾根育代句集『冬至星』 2016年  本阿弥書店」より。

万緑の端ひつぱつて卓布とす
神苑の霧の中より異邦人
着細りの尼僧の急ぐ夏木立

いつまでも夜爪を切りて鵺を呼ぶ    中原道夫

2016年11月11日 金曜日

鵺とは虎鶫のこと。古くは怪物とも考えられていたと歳時記にはある。丹念に爪を切っているうちに、夜も深くなり鵺の声を聴いたような気がしてきたのだろうか。

昔から夜に爪を切ってはいけないと言われている。そうした俗説があるために鵺がいかにも怪物めいて、存在感を持つ。

「中原道夫句集『一夜劇』 2016年  ふらんす堂」より。

混みあへば春の光の押しあへる
日脚伸ぶ猫に背骨といふ峠
しらじらと明けて冬菊活けてある
蛇の衣寄つてたかつて欲しがらず
狼は時間の渓聞さかのぼる

萩散りぬ路上に置かれし鏡台に   杉山文子

2016年11月11日 金曜日

鏡台は粗大ごみだったのか、あるいは引越しの途中の屋外に置かれたのかもしれない。どちらにしても非日常の鏡台、そこへ散りかかる萩もいつもの萩ではなくなって、物語めいてくる。

「杉山文子句集『百年のキリム』  2016年  金雀枝舎」より。

百年のキルムや蟻の声聞こゆ
夫に見えぬ夫の背の疵銀木犀
テキサスや月にぶつかる自動車道
留守録に街騒十秒牡丹雪

せりなずなごひょうはこべら放射能  高野ムツオ

2016年11月11日 金曜日

(せりなずなごひょうはこべら)と新春の若菜を数え、その最後に放射能を据えることで古典的な七草を鮮やかに塗り替えている。

「高野ムツオ第六句集『片翅』 2016年  邑書林」より。この句集も東日本大震災の延長の作品集である。他に以下がある。

溶岩のごとき笑顔も五月かな
口中に螢火飼いしまま老いぬ
戦争や葱いっせいに匂い出す
若布喰い白魚を喰い涙ぐむ

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