桃を売る煉瓦民家の屋根に石
遺跡より遺跡をつなぐ林檎畑
渭水いまも霧の中より霧の声
水平線見定めてゐる花の山
振り返ること獣にも翁の忌
旅と言っても世界的な旅をしている作家の句集である。旅に流されないで骨格を感じる作品群である。幾たびか行ったことのある中国を思い出した。
桃を売る煉瓦民家の屋根に石
遺跡より遺跡をつなぐ林檎畑
渭水いまも霧の中より霧の声
水平線見定めてゐる花の山
振り返ること獣にも翁の忌
旅と言っても世界的な旅をしている作家の句集である。旅に流されないで骨格を感じる作品群である。幾たびか行ったことのある中国を思い出した。
蝌蚪の紐水を濁して引き寄する
湧水に力ありけり神の留守
山神に弓矢を祀り菖蒲葺く
甘樫の丘越え来たる稲雀
落し角拾ふ野墓を掃除して
作者の住んいるところが東吉野鷲家、まさに原石鼎が二年ほど過した土地である。そこは風土の香り濃い場所なのかもしれないと、つくづく感じ入った。「この句集は後世、民俗学の資料としても重宝されるだろう」と茨木和生氏が帯にも書いている。
今年が和知喜八氏の生誕百年にあたるということで、結社「饗宴」で刊行したもの。現主宰の山崎聡氏の監修。
おそく帰るや歯磨きコップに子の土筆 『習作期』
花嫁の父たもとおる樹の青葉 『同齢』
わびすけへ鶲息子の給料日 『羽毛』
七十歳の夏あかがねの沙羅双樹 『川蝉』
夏休み子供の金魚へ金魚足す 『父の花火』
たましいを入れあちこちにほたるぶくろ 『五階の満月』
加藤楸邨の「寒雷」で育った作家らしい生活から発した人生諷詠。
自己の俳句工房の公開とも言えるが、自句自解は作家によって内容が違う。矢島渚男の場合はその一句を作ったときの背景が書着こまれていて、自ずと自分史にもなっている。
咲き終へて桜は山の木に還る
ざわざわと蝗の袋盛り上がる
こうした句を拾ってゆくと、有無を言わさぬ存在を感じる作品集であるのがわかる。
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