現代俳句管見 句集より 筆者斎藤良子
句集『白雁』 岩淵喜代子
万の人間の一人として万の鳥の一羽を詠む。 等身大の人生から、ユーモアの歩幅とペーソスの歩速で抜け出してはまた、岩淵喜代子は地上の船に還ってくる。(清水哲男 帯文より)
水無月の平手にあたる馬の胴
野馬追の武者を差し出す大藁屋
青鷺の飛び立つときの煙色
深閑と蓮にぶつかる蓮見舟
大南瓜椅子に置かれて幾日か
馬の句が四句野馬追を詠っている。 福島県浜通り北部は旧相馬藩領で、野馬追の神事と祭が行われるが、神事は国の要無形民俗文化財に指定され、東北六大祭の一つにもなっている。現在は神事と祭は分離され別々に行われている。平将門の時代の軍事訓練が元といわれる。
雁渡し仏も影をつくりけり
かりがねの夜も一列の藁ぼつち
水霜や裏表紙へと絵のつづき
万の鳥帰り一羽の白雁も
句集名は〈万の鳥帰り一羽の白雁も〉から採用したとある。
日本には冬鳥として稀に飛来するようだが、嘴と足が桃色、風り羽が黒色の他、青色型も居て、胴体や翼の羽衣が淡々灰色や暗青灰色も居る。