句集鑑賞 筆者石井洽子
岩淵喜代子著『白雁』
万の鳥帰り一羽の白雁も
この句を句集名とされる「ににん」代表の著者の308句を収める第五句集である。
幻をかたちにすれば白魚に
月光の届かぬ部屋に寝まるなり
「句作りは等身大の自分を後追いせずに自分を抜け出すための手段」であり「切に自分を変える旅がしたい」と。
花ミモザ地上の船は錆こぼす
空の海にミモザの大枝が船となりゆらゆらと撓っている。たしかにその黄色は錆色を含んでいる。
十二使徒のあとに加はれ葱坊主
伸びた葱坊主と十二使徒。この視線にある愛しみとやさしさ。
一生の幸とは花びら積もるやう
積もった花びらの隙間の柔らかな空気。あくまでも透明な軽さ。本当にそんな一生でありたい。「憧れ」を追う旅がしたいという著者の今を一冊にしたこの本は読者の胸底に落ちいつまでも共鳴する。そして風の道を歩むことの豊かさを改めて思う。