現代俳句月評 筆者 高御堂季男
俳壇6月号「蘆舟」より
蜜豆や出雲八重垣妻籠めに 岩淵喜代子
「八雲立つ出雲八重垣妻ごみに八重垣作るその八重垣を」と、神代の昔、須佐之男命は愛しい人に詠った。「貴女を籠らせるために私は美しい八重垣を作りますよ」という意味である。掲句は「八雲立つ」が「蜜豆」に置きかえられている。それは「私には蜜豆があれば幸せですよ」という諧謔味のある意にもとれる。しかし、さらに深く読むと、ここには作者の奥深い思いが込められているように思える。それは、美しく涼しげな「蜜豆」に寄せた昔日のあれこれである。