2012年8月3日 のアーカイブ

『美濃』2012年8月号 主宰・渡辺純枝

2012年8月3日 金曜日

現代俳句月評        筆者 高御堂季男

 俳壇6月号「蘆舟」より
蜜豆や出雲八重垣妻籠めに      岩淵喜代子
             
「八雲立つ出雲八重垣妻ごみに八重垣作るその八重垣を」と、神代の昔、須佐之男命は愛しい人に詠った。「貴女を籠らせるために私は美しい八重垣を作りますよ」という意味である。掲句は「八雲立つ」が「蜜豆」に置きかえられている。それは「私には蜜豆があれば幸せですよ」という諧謔味のある意にもとれる。しかし、さらに深く読むと、ここには作者の奥深い思いが込められているように思える。それは、美しく涼しげな「蜜豆」に寄せた昔日のあれこれである。

『遊牧』2012年8月号  主宰・塩野谷 仁

2012年8月3日 金曜日

遠交近交     筆者 塩野谷 仁

万の鳥帰り一羽の白雁も    岩淵喜代子

『白雁』(角川平成俳句叢書38)は氏の第五句集。308句を収める。句集名は掲句から採ったとあとがきにある。「一羽の白雁」のあざやかな残影が心に沁みる。このこと、清水哲男氏が帯文でこう語っていた。「万の人間の一人として万の鳥の一羽を詠む。等身大の人生から、ユーモアの歩幅とペーソスの歩速で抜け出してはまた、岩淵喜代子は地上の船に還ってくる。」
作者の句作の全容を語ることばでもある。

化けるなら泰山木の花の中
螢から螢こぼるるときもあり
折鶴に息を吹き込む夏休
鬼の子や昼とは夜を待つ時間
まるごとがいのちなのかも海鼠とは

作者の「あとがき」が心を打つ。「書くことは(生きざま)を書き残すことだと錯覚してしまいそうですが、等身大の自分を後追いしても仕方がありません。句集作りは今の自分を抜け出すための手段」だと記していた。留めて置きたい言葉でもある。そんな作者の、句集の後半から共鳴作のいくつか。

幻をかたちにすれば白魚に
雲雀には穴のやうなる潦
青空の雲雀は海へゆきたがらず

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