朝ゴミ出しに出たら、なんだか風景がぼやけている。あれ!と思ってふり向いてみたが、その方向もかすんでいた。春霞だ。こんなときには川のあたりにいくともっと、深いのではないかと思う。桜も勢いづいて開花するだろう。
昼近く朝霞駅に立つと、霧で電車が遅れているというテロップが流れていた。きっと朝の濃霧の混乱がまだ尾を引いているのだ。若い女性の携帯の会話が耳に入ってきた。
「なんだか霜で、電車が遅れてるみたいよ!」
ーームムム、霜‥‥霜で電車は遅れない!!--
このところの陽気は、暖かいのか寒いのか判断しにくい。動けば暖かいのだが、動かないとなんだかひやひやとした空気に包まれる。まさに花冷えというもの。車窓にいくたびも開花しはじめた桜が通り過ぎる。
花影婆娑と踏むべくありぬ岨の月
石鼎の句集名は「花影」だが、そのわりには桜を詠んでいない。この句の隣には
花の戸やひそかに山の月を領す
これだって花そのものではない。 そう思って句集を開くと、ほとんど桜を詠んでいないし、思い出す句もない。最初に名句を作ってしまうと、その季語は詠めないのだろうか。