松野苑子句集『真水』 2009年 角川書店刊
童心と冒険の句集として
水餅は雲の気持になつてをり
手袋が欠伸のやうに置かれあり
蟷螂に巨大鉛筆近づき来
ブランコを百回漕ぎて我を消す
お汁粉の餅がまつしろ京泊
空蝉を一回吹いて捨てにけり
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酒井弘司句集『谷風』 2009年 津軽書房
クレソンの根からしたたる春の水
にんげんに盗人萩と呼ばれおり
海を空とおもう日もあり秋はじめ
風呂敷をひろげて包む春の風
揚羽来てこの世の光撒き散らす
主宰誌『朱夏』のあとがきにはしばしば菜園のお話が登場する。それを思い出すと、酒井氏の姿も浮びあがってきそうである。全体に陽光のあふれた作品集。
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岡崎桂子句集『梓弓』 2009年 本阿弥書店刊
力のある作家として
鵙鳴けり寝墓を石と思ふ時
影もまた水を越えけり黒揚羽
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辻惠美子句集『萌葱』 2009年 角川書店刊
姿勢正しい句集として
深海に鳴りたるごとし冬風鈴
寒天干裏返す時顔翳る